「姿勢を良くしなさい」と言われて頑張って背筋を伸ばし胸を張ってみても、凝りや痛みが増して辛いだけとか、腰痛がちで「腹筋を鍛えなさい」と言われて腹筋運動を頑張ったが、体力はついたような気がするのに事態はむしろ悪化しているといったような話は、よく聞くことだと思います。

ご存知のように、姿勢や動きの癖は、ほとんど無意識に出てしまうものであり、実は、論理思考の新皮質レベルで直接コントロールしようとしても効果は期待できません。もっと原始的な哺乳類脳や爬虫類脳のレベルに働きかける必要があります。哺乳類脳や爬虫類脳に働きかけるのに有効な言葉は、それぞれ、感情であり、感覚です。 激しい感情が、無意識の内に表情や体の緊張・姿勢に現れて、見ただけでわかるというのは、日常ひんぱんに出くわす事実だとおもいます。姿勢や動きの癖を改善するには、さらに深い爬虫類脳に働きかけるために、爬虫類脳の言語である「感覚」に働きかける必要があります。身体の感覚に意識を向けてゆっくりと優しいリラックスした動きを行います。

重力場の中では、物理法則により物は落下しますが、人間は気持よくリラックスすると、背筋が伸びて頭の位置がむしろ高くなるのはなぜでしょうか?

筋肉には、「速筋」と「遅筋」のニ種類の筋線維があります。

「速筋」線維は、素早く収縮でき、瞬発力を発揮しますが、すぐ疲れてしまいます。筋トレや強い激しい動きで鍛えられるのは、おもにこの部分です。

「遅筋」線維は、疲労することなく継続的な収縮を維持します。横隔膜のように、意識しなくても働き続けています。

姿勢を維持するいわゆる姿勢筋とは、「遅筋」線維成分がで多く、ほとんど意識に上ることなく適切な緊張を維持している筋肉群です。

「全身をリラックスさせる」と言う時、リラックスするのは「速筋」であり、速筋がリラックスするほど、遅筋は生き生きと活動でき、身体の構造が安定します。こうして身体が安定すればするほど、速筋は、必要な時に瞬時に収縮して活動し、仕事が終われば完全にリラックスするというポジティブなサイクルが実現されるのです。

人間が気持よくリラックスしたとき、一見、重力の法則に反するかのように、背筋が伸び頭の位置を高くなるのは、姿勢筋が活性化したからです。

人体がテンセグリティ構造(張力の均衡で保たれる立体構造)であることを示す良い例だと思います。

つまり、姿勢改善には、リラックスした状態で、身体感覚を感じながらゆっくりとした動きで働きかけ、遅筋による姿勢筋群を活性化し、身体構造を安定化させていくことが、とても重要なのです。